休んだはずなのに、疲れが取れないあなたへ―『養生訓』の「心は楽しませ、体は動かす」という知恵

日曜の夕方、ソファの上で、ふと気づくことがあります。

今日、一日じゅうゴロゴロしていたのに――なんだか、疲れている。
体を休めたはずなのに、頭は重いし、気分もすっきりしない。
それどころか、明日からの一週間が、いつもより重たく見える。

「ちゃんと休んだのに、どうして?」

その謎に、300年前の『養生訓(ようじょうくん)』が、こんな答えを用意しています。

心は楽しむべし、苦しむべからず。身は労すべし、やすめ過(す)ぐすべからず。

(心は楽しませるのがよい。苦しませてはいけない。体は働かせるのがよい。休ませすぎてはいけない。)(筆者訳)

出典:『養生訓・和俗童子訓』(貝原益軒著/石川謙校訂/岩波文庫)

心は楽しませ、体は動かす。

これを読んでから、あの日曜の夕方を思い返すと、はっとします。
わたしたちの「休日」は、ちょうど、あべこべなのです。

目次

体は休んでいるのに、心が働きづめ

ソファでゴロゴロしている間、体はたしかに休んでいます。

でも、心はどうでしょう。

スマホの画面には、ニュースと、誰かの近況と、気になる話が次々流れてくる。
その合間に、月曜の段取り、返していない連絡、先々の心配ごとが、ぐるぐる顔を出す。

「でも、スマホは楽しくて見ているんだけど」と思うかもしれません。
わたしも、そう思っていました。

ただ、益軒先生の言う「楽しむ」は、にぎやかなことではないのです。
別のところで、こう書いています。

……心やすくしづかなれば、天君ゆたかに、くるしみなくして楽しむ。……

(……心が安らかで静かなら、心の主はゆったりとして、苦しみなく楽しめる。……)(筆者訳)

出典:同上

つまり「楽しむ」とは、心が静かでいられること。
次々に流れてくるものを追いかけている心は、楽しんでいるというより、働いています。

体はオフ、心はフル稼働。
益軒先生の教えの、正反対です。

これでは夕方に「疲れた」と感じるのも、無理はありません。
休ませるべきものを働かせて、動かすべきものを寝かせていたのですから。

ピヨ

益軒先生って、どんな人だったの?

ミミ

江戸時代の学者さんでね、生まれつき体が丈夫ではなかったのに、暮らし方の工夫で長生きした人といわれているの。『養生訓』を書いたのは八十歳を過ぎてから。自分の体で試し続けた知恵だから、説得力があるんだよね。

体を動かすと、心が静かになる

「体は労せしむべし」といっても、運動をがんばれ、という話ではありません。
益軒先生がすすめるのは、散歩や、体をこまめに動かす暮らしくらいの、軽いものです。

そして、やってみるとわかるのですが――
手足が動いているあいだ、心配ごとの声は、少し小さくなります。

歩いているとき。
洗いものをしているとき。
部屋のすみを、ひとつ片づけているとき。

体に小さな仕事を渡すと、心はやっと、仕事から降りられる。
逆に、体がひまなときほど、心は残業を始めてしまうのです。

ニャム

ゴロゴロが悪いんじゃなくて、『体はひま、心はぐるぐる』の組み合わせが疲れるんだね。

ミミ

そうなの。だから休むときは、心の側にこそ、のんびりさせてあげるの。体には、散歩くらいの軽いお仕事を渡してね。

(そもそも「休んでいいのかな」と思ってしまう方は、まずこちらを。→ 老荘思想とは何か−老子と荘子がそっと教えてくれる「休んでもいい」という考え方

わたしはアクセサリーを作る仕事をしているので、この感覚には覚えがあります。

手は、どちらも同じくらい動いています。
違うのは、頭がずっと働いているかどうか。

益軒先生の言う「心を楽しませる」は、たぶん、この頭を休ませることなのだと思います。
体を動かしていても、頭が休めていない日のほうが、疲れるのですから。

次のお休みに、「心オフ・体オン」の30分をひとつ入れてみる。

・スマホを置いて、近所をひとまわり歩く
・または、引き出しひとつ、窓ひとつ、どこか一か所だけ手を動かして整える
・終わったら、ソファに戻ってOK。そのときの心の静かさを、いつもの夕方と比べてみてください

がんばる運動はいりません。心を休ませるために、体にちょっとだけ働いてもらう。それだけです。

モコ

休むのが下手なんじゃなくて、休ませる場所がちょっとずれてただけだよ。今度のお休みは、心をいちばんいい席に座らせてあげてね。

「心は楽しませ、体は動かす」が教えてくれること

休んだのに疲れているのは、あなたの休み方が間違っていたからではなく、心と体の席が入れかわっていただけ

心は、楽しいことと静けさの席へ。
体は、散歩や小さな用事の席へ。

300年前の学者さんが自分の体で確かめ続けた席順は、スマホの時代のわたしたちにこそ、効くような気がします。

次の休みの日、夕方の自分が「いい一日だった」と言えますように。

ほんのひとときでも、心がゆるむ時間になっていたらうれしいです。
また何かのときに、ふとこの記事を思い出してもらえたら。

今日の一冊

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『養生訓・和俗童子訓』(貝原益軒著/石川謙校訂/岩波文庫)

「心は楽しむべし、苦しむべからず」は巻第二の総論下に。300年前の学者が、体の弱かった自分の暮らしで確かめ続けた知恵が、短い言葉でぎっしり並んでいます。原文だけの本ですが、声に出すと不思議とすっと入ってきます。休み方を見直したい週末のお供に。

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この記事を書いた人

おしゃれなカフェより
家でのんびり本を読む時間が落ち着くうさぎ
静かな時間と、心に残る言葉が好き。
昔の人の生き方から
今を生きるヒントを探しています。

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